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COLUMN

14. Calatrava (主にref.96) についての考察

ようやくweb designerさんの尽力のおかげで、自分でコラムをアップする事が出来るようになりました。
と言う事で、今回は、以前ブログ上で何回かに分けて紹介したref.96を中心としたCalatravaについて少し書いてみようかと思います。
まず、「Calatravaという概念は何であるか?」ですが、今でこそ現行品に「Calatrava」というモデル名は存在しますが、実際にPatek Philippeが自社のモデルに「Calatrava」というネーミングを正式に使用したのは1980年代の中期の事になります。
それまでも、1980年代初期の頃から「Calatrava」と言う名称はディーラーやコレクターの間で使われていましたが、それはVintageのあるモデルの通称として呼ばれていたにすぎませんでした。
さて、それでは、そのモデルの概念ですが、それは、典型的なモデルであるref.96のように:
1.「丸型であること」
2.「ケースと一体になった流れるような曲線を描いたフォルムを持つラグを持つこと」
3.「ベゼルがフラットなもの」 
と言った3つの条件を備えたモデルをカラトラバと称していたようです。
従って、vintageで該当するリファレンスの主な物を挙げると: 
・ref.96や大型のref.570と言った非防水の典型的なモデル
・ref.2508やref.2555と言った防水型タイプ
・ref.3403やref.3439等の自動巻きモデル
等がそれに該当します。
但し、現行品では上記のような3つの条件に関わらず、丸型のモデル全般に「Calatrava」というモデル名が使用されており、そのためVintageの丸型全てに「Calatrava」と言う通称を使用するコレクターやディーラーも居るようようですが、一般的には上記3条件を備えたモデルと理解しておいた方が良いのではないでしょうか。
次にref.96を中心に「Calatrava」モデル発生の歴史的背景や画像と共に具体的なモデルをいくつか紹介していきたいと思います。
「Calatrava」の原点であるref.96は、Patek Philippeの文字盤供給メーカーであったStern商会がPatek社を買収した1932年に発表されました。
当初より、ref.96は「BAUHAUS」のコンセプトをベースにデザイン化されたと言われていますが、実際にそのケースデザインを見てみると、「BAUHAUS」の基本コンセプトである「非個人的で幾何学的で厳格なことであり、むだを省き素材を研究し、洗練された形」を完全に踏襲していると言えるのではないでしょうか。
「Bauhaus」とは、1919年にドイツ・ヴァイマル(ワイマール)に設立された美術(工芸・写真・デザイン等を含む)と建築に関する総合的な教育を行った学校で、また、その流れを汲む合理主義的・機能主義的な芸術を指すこともあります。学校として存在し得たのは、ナチスにより1933年に閉校されるまでのわずか14年間ですが、その表現傾向はモダニズム建築に大きな影響を与えたと云われて言います。
ちょうどref.96が発売された翌年に「BAUHAUS」は閉校になったわけです。
確かに、ref.96を中心とした「Calatrava」のフォルムを見てみると、極めてシンプルで、しかしながら他の追随を許さない洗練された形という表現が当てはまり、正に現在の腕時計のデザインの基本になったものと言っても過言ではないかもしれません。その洗練されたシンプルなデザインは、発売から70年以上経過した今でも決して古めかしくなく、むしろ今でもとても新鮮に映るから不思議です。
ref.96のケースデザインは1932年から普遍であるかと言うと決してそういうわけではなく、初期の物と後期の物では特にラグの形状が異なります。
後期の方が太く頑丈に設計されており、恐らくは強度面を考慮してのマイナーチェンジだったのではないでしょうか。
根本となるデザインは維持しながら、多少のモディファイを加えながら時代ごとに変遷しているようです。
画像は、それぞれラグの形状ですが、左上から30年代中期のラグ、右上が40年代初期、左下が50年代中期、そして右下が60年代となります。
calatrava1.JPG
ref.96のダイヤルのデザインも様々な物が知られていますが、基本的には「BAUHAUS」のコンセプトから極端に逸脱したデザインのものは見られないように思われます。
最も数の多いデザインは、代表的なバーインデックスにドット上のミニッツ表記、そしてdauphineハンドになります。このデザインはイエローゴールドだけでなく、ステンレス、ローズ、ホワイト、そしてプラチナモデルでも見ることができます。
ref.96のダイヤルデザインの中で最も美しく、人気が(価格も)高いのが、日本人のコレクターの間では「東京都ダイヤル」などとも呼ばれたりしているセクターダイヤルのタイプです。
このデザインはref.96だけでなく、同時期のクロノグラフや角型のモデルでも見ることができます。そのバランスの良い扇状のラインとツートーンのデザインの物は、現存数も少なく、マニア垂涎の時計と言えるのではないでしょうか。1930年代の短期間にしか製造されず、既に70年以上を経過しているため、いわゆるミントコンディションのダイヤルに出会う事はほとんど不可能と考えた方が良く、逆に綺麗過ぎても「おかしい」と考えた方がよいかもしれません。
画像は、左が代表的なセクターデザインのモデルで右が12時、3時、6時、及び9時がゴールドのアラビック数字のデザインのモデルです
calatrava2.jpg
セクターデザインのref.96では右のタイプの方が現存数が多いようですが、これは、左のセクターデザインのタイプが極めて初期のルクルトベースのセンターセコンドを中心に採用されたのに対して、右のアラビック数字のセクターデザインのタイプはルクルトベースのセンターセコンドから12-120インダイレクトセンターセコンドの初期にも採用された事、つまり製造(販売)期間が左のモデルよりは長かった事がその理由だと思われます。
下の画像は左からツートーンの文字盤に飛びアラビック数字が配列された大変ユニークなデザインのモデル、中がブラックセクターのスモールセコンドモデル、そして右が、ホワイトゴールドのセクターダイヤルモデルになります。
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また、セクターダイヤル以外にも特に人気の高いモデルとしては、ブレゲ数字のインデックスにスペード形状の針がセットされたデザインもステンレスやイエローゴールドの素材で見る事ができます。
このタイプではブラックダイヤルのデザインも見られますが、現存個数は極めて少なく、セクターデザインと共にマニア垂涎のモデルと言えるでしょう。
一方、プラチナのモデルだけに見る事ができるダイヤモンドインデックスのデザインはref.96の中で最もドレッシーでエレガントな高級感のあるタイプで、それこそパーティー等の用途には最適の時計と言えるのではないでしょうか。
calatrava3.jpg
他にも様々なデザインがありますが、いまだに、それまで市場に出てきた事の無いデザインのref.96が突然市場に出て来る事もあり、一体幾つのバリエーションが合ったのかと驚かされます。
今回ご紹介したのは代表的なデザインの物やユニークなデザインの物の一部ですが、他にも多数のデザインがあり、その洗練されたケース形状とケース素材の組み合わせも豊富で、あらゆるシーンでの使用にも、また観賞するだけでも決して飽きのこないモデルではないでしょうか。
現在は大型の腕時計が主流ですが、いずれまたref.96のようなサイズの時計が脚光を浴びる時代もそう遠くないように思えます。