08. 1980年代のディーラーカタログ
コラムを書くのは久しぶりになってしまいました。
最近は、なかなかコンディションの良いvintageが手に入らないので、専らPatek Philippeのアクセサリーばかり入手しています。
アクセサリーと言っても、カフリンクスとか指輪の類ではなく、カタログとか箱とか、いわゆる付属品と呼ばれるものです。
しかし、その収集も少し極端になってきており、時にはある箱が欲しいばかりにそれに付属している欲しくない時計まで買いそうになったことがあります(本当は時計に付属している箱なんですが…)。とは、言ってもさすがに100万円超の出費になるので、何とか考え直して(今のところ)思いとどまっております。
さて、今回は最近ヨーロッパのコレクターから手に入れたディーラー用のカタログを紹介します。
画像1 1981年のディーラー用のカタログ |
一つは1981年のディーラー用カタログです(画像1)。これは、後ろに1500/80と記載されているので、1980年に1981年用として1500部配布されたという意味と推測しています。
黄色のカバーに中にファイルフォルダーで取り外しができるようになっています。
これは、モデルが期中に追加・廃番になったときに容易く追加、取り外しできるようになっているものです。
中を見てみると、今では考えられないのですが、いわゆるComplicatedに属する腕時計は、ref.2499とref.3450のみとなっています(画像2)。時代は、クォーツ全盛でしたから、シンプルなデザインで二針の薄型時計やクォーツを搭載したが多く見られます。また、現在のPatek社を代表するNautilusの初代モデルも見られ少し目を引きます(画像3)。
画像2 ref.2499とref.3450 画像3 Nautilusの初代モデル |
Ref.2499等は、35年間の間にわずか349個が製造されたのみですから、一年間に10個以下ということになります。これは、最近の同じような機能を持つ時計と比較して、「当時の方が、今よりも一つの時計を製作するのに製造日数が掛った」とか「最近のPatekは大量生産になった」という事ではなく、何よりもそのような高級で複雑な時計の需要そのものが今のように多くはなかった事が最大の原因だろうと考えられます。
一方、ref.3450ですが、こちらは製造期間が1981年から1985年までの4年間ですから、このカタログのref.3450はまさに新発売されたモデルという事になります。事実、カタログではうるう表記が第一世代の赤になっています。Ref.3450は、4年間で244個製造されていますから、平均約60個/年ということで、ref.2499よりははるかに需要は多かったのでしょう。
最近の永久カレンダーと言うとref.3940やref.5940が、ref.3450の後継モデルですが、ref.3940等は約20年の製造期間に7,000個程度が製造されたと言われていますから、ref.3450からref.3940、そして現在に至るまでの約30年の間にいわゆる複雑時計の需要が、5〜6倍に伸びたという事になります。もっとも単年度を比較してみると5?6倍どころの騒ぎではないかもしれません。
最新のPatek Philippeマガジンでも、ref.3940がまさにPatek社の岐路であったとフィリップスターン会長が語っているように、この1980年代というのは、クォーツ時計全盛時代のスイス時計産業の危機を脱して現在の隆盛に至る大きな変換期であったのかもしれません。
少し話が飛びました。
画像4 1987年のディーラー用のカタログ |
もう一つのカタログは、1987年のカタログになります(画像4)。後ろを見てみると1800/86とあるので、1980年よりも300部増えているのが分ります。こちらのカタログではComplicatedは相変わらず2モデルのみで、1980年のref.2499とref.3450がそれぞれ、ref.3970とref.3940に取って代わっています。また、それぞれ、ref.3941とref.3971の表記もあり、まだスケルトンバックがレギュラー品では無かった事が分ります。一方、ref.3970の画像は、ダイヤルは初期モデル型ですが、針のみ後期モデルのようなバトン型になっているようにも見えます。しかし、カレンダーの文字フォントを見ると、最初期モデルのフォントなので、リーフハンドなのかもしれません(画像5)。
画像5 ref.3970の初代モデル |
複雑時計以外の時計を見ると、相変わらずシンプルなデザインの薄型時計が目につきます。従って、市場のデザイントレンドも1980年からまだあまり変化していないように思われます。
Patek Philippe社が様々なデザインの複雑時計の発売を開始するのは、1990年代の中頃代に入ってからですから、いずれ90年代のカタログを手に入れて、また市場やトレンドの分析ができればと考えます。
次回、箱について少しお話したいと考えます。