10. Gilbert Albertのデザインした時計
今回は、Gilbert Albertのデザインした時計について少し書いてみようかと思っております。
Gilber Albertはご存知の方は多いとは思いますが、若干24歳でPatek Philippeでデザインを担当し、追って工房長となりました。また、28歳の時に世界最高峰のデザイン賞DIA(ダイアモンド・インターナショナル・アワード)のオスカーを初受賞し、その後も同賞のオスカーを10回受賞している、宝飾デザイン界の巨匠でもあります。彼のデザインはモダンアートのBrancusiやMondrianの影響を受けたといわれております。詳しくは、こちらをご覧ください。
彼は、前述の様に1955年にPatek Philippeのデザインを担当し、それまでのデザインの枠を超えた通常ではないデザインの時計の製造に着手しました。その流れで1950年代後期に発表した斬新なデザインの時計がいわゆるGilber Albertモデルと言われる時計です。彼のデザインした時計は、ペンダントタイプの物や宝飾時計もございますが、今回は男性用の腕時計に絞って説明していきます。
彼のデザインした男性用の腕時計としては4つのモデルが知られていますが、その中でも一番製造個数も多く、Gilebert Albertモデルとして一番有名なモデルがref.3424で、イエローを始めとして、ローズ、ホワイトそしてプラチナのケースがあり、ベゼルにダイヤモンドを埋め込んだものも時には見られます。
4つのモデルはすべて非対称なケースデザインとなっておりますが、すべてに共通しているのが、中心から均等に12本の放射状に直線的なラインが引かれており、時間を表示している点です(画像1)。
ちなみに、この画像は、左からref.3424,ref.3412そしてref.3422で、海外の知り合いのコレクターの所有物です。
また、ref.3413の画像は以下の通りです(画像2)。
画面1 coutesy of Mr.R.M. |
画面2 |
4本のうち、ref.3424とref.3422は(比較的)製造個数も多く、他の時計と同様に通常のルートで販売されたようです。
一方、ref.3412とref.3413については、ずっとプロトタイプとも言われてきました。しかし、Huber&Banbery共著のPATEK PHILIPPEによればref.3412の画像の説明文(P187)として1969年製造と記載されてあります。Ref.3412は最も古いモデルは1960年に販売されておりますので、もしプロトタイプとするとそんなに長い間が経ってからまた製造する事は考えにくいので、恐らくは、注文に応じて製造するというスタイルをとっていたのだろうと思われます。
結果的に、当時あまりに斬新過ぎて極めて少数しか注文されなかったというのが、ストーリーではないかと推測しております。
画面3 courtesy of Mr.Y.S. |
当時のカタログによるとref.3412,ref.3424及びref.3422はちゃんと掲載もされており、このことからref.3412がプロトタイプでは無かった事は間違いないようです(画像3)。
それでは、ref.3413はどうなのでしょうか?
前述のPATEK PHILIPPEにも掲載はされていますが、そこには「PROTOTYPE」(P188)と記載されています。また、この画像は、何故か左のラグが無いようです。また、Antiqorum社の1990年の4月に開催されたオークションにもref.3413が出品されておりますが、このモデルも左のラグが見当たりません。また、たまたまケースバックも台に反射して見えているのですが、どうもベルトもref.3412のように1本の皮を装着するように設計されているようにも見えます。他のref.3413は通常の時計と同様で上下それぞれ2本のベルトを装着するように設計されています。
また、この個体は、ダイヤルが放射状になっていないようですが、オーバーホールの際にリダイヤルされた可能性も高いため、このデザインがオリジナルかどうかは不明です。
尚、過去にオークションに出品されたref.3413の個体別のナンバーは以下の通りです。複数回出品された個体は、最も直近のオークションを記載しております。また、ebayに出品された個体はローズのケースですが、真贋の確信はありません。
Auctions | ||
781932 | Antiquorum 04/90 | |
Antiquorum Dec/07 | ||
2609759 | Christie’s Dec/03 | |
2609761 | Christie’s Dec/08 | |
Christie’s Dec/01 | ||
e-bay |
表. 過去にオークションに出品されたref.3413の個体別のナンバー
また、ムーブメントNO.は、2本目から783890、783892、783893と続いていますので、恐らく783891もref.3413ではないでしょうか?
Christie’s社によると8本の存在が確認されてはいるようですが、前述のPATEK PHILIPPEに掲載されている画像の1本を加えると、上記の783891があれば8本という事になります。
とまあ、4モデル全てが非常に魅力のあるデザインであることは確かですが、個人的には昔からref.3413が謎も多く一番気になってはおります。
私の推測としては、781932とPATEK PHILIPPEに掲載された左上のラグが無い時計がプロトタイプで残りは、一応ref.3412と同じく「受注製造品」ではないかと考えております。
一応、ムーブメントについても少し説明しておきます。
Ref.3422とref.3424は、レディースの時計にも使用された薄型二針モデルの8-85が搭載され、ref.3412とref.3413は10型最終バージョンの薄型23-300が搭載されております。
いずれもう少し詳しいことも分かるかもしれませんし、分からないかもしれません。しかしながら、こう言ったことを色々考えながら当時の状況を思いめぐらすのも個人的には大変楽しい時間です。