24. ref.3417について
今回は現在ビンテージパテックのマーケットで最も人気の高いリファレンスの一つであるref.3417です。まず簡単におさらいしておきましょう。
Ref.3417は耐磁機能を持った時計で、1958年に既存の12-400ムーブメントに耐磁性のある保護キャップをケース側とムーブメント側に被せる事で耐磁性を持つ時計としてゴールドケースのref.2570等と共に販売を開始されました。その後1960年になり、新たに耐磁性のある金属を使用したムーブメントとして開発された27AM-400を使用して、おおよそ1970年頃迄販売されました。
製造個数は明確な資料はありませんが、12-400を搭載したモデルを第一世代として100~150個程度、1960年以降の27AM-400を搭載したモデルを第二世代として300~500個程度ではないでしょうか。従ってref.3417のトータルの製造数は500~700個程度を推測しております。Ref.3417が市場でとても人気が高いのはその耐磁性のあるムーブメントの存在よりもビンテージパテックの中でも最も個性的なダイヤルが理由であることは言うまでもありません。
では次にダイヤルのバリエーションを見ていきましょう。まず最初に分類をしていきます(かなり細かいのでわかりにくいです)。
1. 時間のインデックスが12時はアプライドのアラビックで、それ以外はアプライドの細くて長い物が入り、分表示が長めのプリントのラインで、ロゴの下に筆記体でAmagneticのプリントが入る物。
(1) ロゴがエナメルで描かれたタイプ
(2) ロゴがプリントで描かれたタイプ
-1. サブダイヤル(スモセコ)が大型のタイプ
-2. サブダイヤルが通常サイズのタイプ
2. 時間のインデックスが12時はアプライドのアラビックで、それ以外はアプライドの細くて長い物が入り、分表示はドットになる物。
(1) ロゴがエナメルで描かれたタイプ
-1. ロゴの下に筆記体でAmagneticのプリントが入るタイプ
-2. ロゴの下に何も入らないタイプ
(2) ロゴがプリントで描かれたタイプ
-1. ロゴの下に筆記体でAmagneticのプリントが入るタイプ
-2. ロゴの下に何も入らないタイプ
3. 12時、3時及び9時がアラビックでそれ以外の時間表示が夜光、分表示は長めのプリントのラインでロゴもプリントのタイプ
以上大きく分けると3分類され、細分化すると8分類されます。また、プリントのロゴのフォントの違いは3~5タイプありますが、それらはここでは分けておりません。それでは、上記のダイヤルを画像で紹介していきます。
1(1) ロゴがエナメルで描かれたタイプ:1958年のref.3417発売当初から27AM-400にムーブメントが切り替わる1960年頃まで
1(2)-1 ロゴがプリントで描かれサブダイヤルが大型のタイプ:基本は1961年以降1965年頃まで
※ロゴがエナメルのフォントに近い物があり(例えば上の個体)、画像だけでは一見エナメルではないかと見間違うこともあります。しかし、エナメルの物とプリントの物では決定的な違いがあります。それはAmagneticの配置がエナメルの物はロゴと少し離れて下に配置され、プリントの物はロゴに近づいて配置されてます。下の画像は上がエナメルで下がプリントになります。
1(2)-2 ロゴがプリントで描かれサブダイヤルが通常サイズのタイプ:1964年頃以降1970年頃まで
2(1)-1 ロゴがエナメルで描かれAmagneticが入るタイプ(画像はコレクターから拝借):初期から後年まで
2(1)-2 ロゴがエナメルで描かれAmagneticの入らないタイプ:初期から後年まで
2(2)-1 ロゴがプリントで描かれAmagneticが入るタイプ(他社サイトから画像を拝借):1961年以降後年まで
2(2)-2 ロゴがプリントで描かれAmagneticが入らないタイプ:1961年以降後年まで。
3 夜光タイプ:1958年のref.3417発売当初から27AM-400にムーブメントが切り替わる1960年頃まで、今のところ市場では6本程度存在が知られております。
次は少しパーツを見ていきましょう。まずは、針ですが、上記写真を見ての通り、基本はスティールのまっすぐなバトンタイプで、中にはバトンでも2(2)-1のタイプの物や、夜光には3のように夜光の針が入ります。そして、秒針ですが、基本はリーフタイプでサブダイヤルのサークルに届きます。
中にはバトンの物も見られますが(上記2(2)-1もそうですが)、これは恐らく他社製の物か他のリファレンスの物に交換されていると思われます。ただ、ref.3417(とref.2570)が販売が開始された当初のカタログを見ると秒針が明らかにバトンのように見えます。
同じくこちらは1961年のカタログから。秒針はやはりバトンになっております。
もしかしたら、当初はバトンでスタートし、すぐにリーフに変わったのかもしれません。自分のデータにある最もケースナンバーが古い個体を見ても秒針はリーフになっておりますので、実際の販売は秒針は全てリーフなのかもしれません。これは推測の域を出ませんので確かな所はなんとも言えません。参考までに1967年のカタログに掲載されているref.3417も紹介しておきます。こちらは2(1)-2のダイヤルのようですが、秒針はリーフになっております。
また、初期物と後期物の違いはケースにも見られます。それはケースサイドを見ると分かるのですが、初期の概ね1960年までは、ケースサイドは何も意匠はありませんが、後期の物には細いラインが入ります。
これは特に強度や構造上の問題ではなく、単に意匠的な違いだと思われます。
続いて、インナーケースですが、初期の物にはケースナンバーが刻印されております。
そして、1960年製造の個体でケースナンバーの下3桁が刻印されている物を数個見ました。
他方、後年の物にはナンバーが一切刻印されていない物が見られます。人によってはナンバーが刻印されていない物は後年に交換された物だと言う人もいます。しかし、その割には無刻印のインナーケースが多すぎるように思われます。私の推測としては初期物のみインナーケースに7桁のケースナンバーを刻印し、1960年頃から下3桁のみに移行し、以降途中からナンバーを刻印しなくなったと言うのが考え方です。
さて、最後に余談ですが。。。
ref.3417は他の同時期のビンテージパテックと比べると、ダイヤルのコンディションが良くない物が多いように思われます。これは推測ですが、ref.3417はパテックの中でも耐磁性のあるスティール時計として、どちらかというと実用的な時計としての位置づけだったのではないでしょうか。従って、販売後も実際にオーナーに高頻度で使用された時計が多く、そのため結果的にダイヤルにダメージが生じた可能性があります。しかし、中には本当にミントコンディションのダイヤルも特にプリントの物で存在しております。ここに一つ問題があります。それは、パテック本社がプリントのストックダイヤルを近年まで(もしかしたら現在も)在庫で保有していたという事実です。これももしかしたら前述の通り、ref.3417はダイヤルにダメージのある物が多かった為に、オーバーホール時に交換する目的で大量に在庫するようにしていたのかもしれません。しかもそのダイヤルは後年のプリントのダイヤルと比較してもなんの違いも見当たらず、そのため特に後年の個体でダイヤルが交換されていても全くその痕跡を見分けることが出来ません。ある意味、見極めが出来ないなら、それはそれで良いじゃないかという考え方もあるかもしれません。もちろん、初期のタイプ(1960年以前のタイプ)にミントのプリント文字盤が入っていたら、これはちょっと躊躇した方が賢明かもしれません(でも初期物にプリントダイヤルが入ることは絶対無いとは言い切れません)。
現在、ref.3417の相場は高騰を続けております。今後相場が更に高騰するかどうかはマーケット次第ですが、実用性が高くて、スティールモデルで加えてダイヤルのデザインに特徴があるとすると特に値段が下がる要素は見当たらないというのが本音です。入手するとしたらなるべく傷はあってもケースの状態が良くて、ダイヤルは必要以上にミントではなく相当の状態を維持した物を入手されることをおすすめ致します。