COLUMN

18.

Old Steel Casesについて

 ブログ上で何度かオールドのスティールケースに刻印されているケースナンバーとは別の1〜2桁の数字について言及させていただきました。
vintage Patekに興味を持ち始めたころから、この数字を疑問に思っているので、疑問を持ち始めてかれこれ23年位になるでしょうか。
 これだけ長い間疑問を抱き続ける中で、「このままで良いのか」と言う思いや、またその時計を商売にもしている事等から、さすがにそろそろ「疑問をクリアにしよう」と思い立ち、今回色々と調査してみたわけです。
 その結果、「どうやらこう言う事らしい」と言う事が判明してきましたので、久しぶりにコラムとして以下に説明させていただきます。
 まず、ここで言うオールドのスティールケースとは概ね1930年代から1940年代初期辺り迄と考えていただければと思います。
 当時、Patek Philippeにスティールケースを供給していたメーカーは数社ありますが、その中でも一番多く供給していたのが、スティールだけでなくゴールドケースも供給していた 鍵に“FB”マークで知られる、”Francois Borgel”社です。
sttel case back.JPG
 同社は後に他社に買収され “Taubert Freres”社となりますが、トレードマークの “FB” は、買収後も継続して採用されていました。
 また、特に130系のクロノグラフのケースを中心にスティールケースを供給していたのが、”Georges Croisier”社で同社も後に他社に買収されて“Genevor SA”社となります。同社は特に “FB”のようなトレードマークはございません。
 他にもやはりクロノグラフ系のケースを製造していた “Bernard Dubois & Cie” 社がございました。
この中で、前述の二社のスティールケースがケース上にケースナンバーと異なる1〜2桁の数字の刻印がされていたようです。
 ご存知の通り、スティールは材質がゴールドやプラチナよりも硬質で、製造加工により手間がかかったため、ケースメーカーにとってのケース原価の内、製造コストの占める割合がゴールドやプラチナのそれよりもはるかに高かったようです。
 これは、原材料としてのゴールドとスティールを比較すると、ゴールドの方がはるかに高価であったため、ある意味当たり前と言えば当たり前と言えるでしょう。
 詳しく説明すると、スティールは前述の通り加工しにくい硬質素材の為、ケースを製造加工する、いわゆる工作機械の投資額がゴールド用の工作機械よりも高価であったようで、ケースの原価の内、工作機械の減価償却費の割合も高く、また製造加工に要する時間も軟質のゴールドより長くかかったため、1個当りの人件費も高かったようです。
 従って、ケースメーカーとして、顧客である時計メーカーからの細かな注文に応えて製造するよりも、1個当たりの加工費用を抑えるために出来るだけまとめて製造しようと言う発想が生まれたのは当然の事なのかもしれません。もしかしたら製造機械のロットとの兼ね合いだったのかもしれません。
 一方、Patek Philippeのような時計メーカーは、元々製造数も多くは無いので、出来るだけケースの在庫を持ちたくないわけで、一度の発注の単位は概ねダース(12個)づつ発注していたようです。しかしながら、ケースメーカーとしては前述の通り、コストを抑える目的で一度の製造ロットでケースを造ってしまいたいわけで、例えば12個の注文に対して36個とか48個と言う単位で製造し納品していたようです。
 Patekとしては12個の注文に対して36個乃至は48個と言う納品が来るわけですが、これはこれで受けていたようで、恐らく13個目以降は消化仕入れ(時計の製造に使用するたびに仕入を上げる)のような形を採用していたのかもしれません。
 一方、ゴールドケースの場合は、素材その物の原価が高かったため、スティールのように製造コストを考慮して注文以上の製造をせずに、基本的には時計メーカーからの注文に応じて製造していたようです。
 ケースメーカーは、Patekから注文を受けた段階で、最初からケースバックに “PATEK, PHILIPPE&Co” 等のサインやマークを刻印した上で納品していたようで、ケースナンバーについても受注の段階で(PATEKから)指定があった場合は、刻印した上で納品していたようです。
 そこで、いよいよ今回のTOPICである1〜2桁の数字がいつの段階で何のために刻印されたかと言う本題に入っていきたいと思います。
 前述の通り、Patekとしては発注した数よりも常に2〜3ダース多く納品されてくるわけですから、常時発注数と納品及び棚卸の数に大きな差が出てくる事になります。従って、スティールケースの場合に限って、納品ロット数を管理する必要が生じてくるわけです。
 このため、自社のケースナンバーとは別に、納品されてきたケースを順番に1から36(もしくは48迄)と言うナンバリングをして管理をする事で、納品のロットを管理していたわけなんです。
 従って、その納品ロットが終わると、次の納品のロットに対して、最初のケースからまた1から順にナンバリングしていったようなんです。
 色々調べると、他社の時計メーカーのスティールケースにもいわゆるケースナンバーとは別の二桁や三桁の数字が刻印されているケースがあるようで、もしかしたら他社もPatekと同じように納品ロットを管理するためにこのようなナンバリングを用いていたのかもしれません。三桁があるのは、それだけ一度の納品数が多かったからなのかもしれません。
 それでは、この納品ロットナンバーはいつの段階で刻印されたのでしょうか??
 納品ロットで管理する目的でナンバーを刻印していたのであれば、ケースメーカーがPatekに納品する段階で1〜36(もしくは48)のナンバーを刻印した上で納品していた可能性もありますが、刻印されている実際のケースを見ると(画像はref.130のケースでメーカーは “Georges Croisier” 社になります):
IMG_6801.JPG
“SATIBRITE” 等のマークの刻印の下にPatekのケースナンバーの刻印が入り、その下に納品ロットナンバーが刻印されております。
 従って、どう考えても、順序としては、「先にケースナンバーを刻印し、その下に納品ロットナンバーを刻印した」と考えられます。
 ケースナンバーについては事前に決まっている場合はケースメーカーが刻印した上で納品していたと前述しましたが、もちろんそのようなパターンもあったでしょうが、ケースナンバーと納品ロットナンバーについては、私は納品後に実際にウオッチメーカーがそのケースを使用する際に、時計メーカー側(ここではPatek)が刻印していたのではないかと考えています。
 ケースメーカーがPatekからの注文より多いケース数を納品していたとすると、納品の時点では大半のケースのケースナンバーは確定していなかったわけですから、当然ケースナンバーを刻印する事は出来なかったわけです。
 また、もう一つ特筆すべき点として、ケースナンバーと納品ロットナンバーの数字の書体が同じであると言う点があげられます。
 もし、これらの刻印がケースメーカーとPatekでそれぞれ別々に刻印した場合は、両者の数字の書体が違いがあってしかるべきではないかと思うのですが、前述の通りどれも一緒なわけです。
 と言う事は、「ケースナンバーと納品ロットナンバーは同じタイミングで刻印された可能性が高い」と言う事になるわけです。
 例えば、以下にケースバックの画像をいくつか紹介します。
96-4.jpg
全て”Francois Borgel”社のケースですが、左から、1934年のref.96のケース、続いて1935年のref.96のケース、右は1937年のref.96のケースとなります。それぞれ、製造年代は殆ど一緒ですが、刻印その物は少しづつ違っていますね。
少し小さくて分かりにくいかもしれませんが、ケースナンバーとその下の納品ロットナンバーの事体は一部を除いて殆ど一緒だと思いませんか?
 
 以上長々と書いてまいりましたが、以下に私なりの結論を申し上げたいと思います。
1. 30年代〜40年代初期のスティールケースに刻印されているケースナンバーとは別の1〜2桁のナンバーは納品ロット毎に在庫管理をする目的でナンバリングされたもの、つまり納品ロットナンバーである。
2. 刻印のタイミングは、恐らくPatek Philippeがケースを使用する段階でケースナンバーと共に刻印されたと思われる。
 最後に、今回のスティールケースの謎について、様々な意見を頂戴したコレクターのK.K.サン並びにY.K.サンありがとうございました。
And thanks to Mr.Eric Tortella !
参考文献:John Goldberger “PATEK PHILIPPE STEEL WATCHES”

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